箱が鳴る。

真近で迫真の演奏を聴けることが魅力のカナデア・サロンライブ。
いわゆる普通のコンサートホールは、ホール内の残響を利用してあえて音を丸く”綺麗に”聴かせている。何百、何千という人に届くように音を減衰させない、という役割もあるだろう。
一方、カナデア・サロンライブでは、数メートル以内の数十人のお客さんに音を届けるため、残響の多いホールは使っていない。すると、音も丸くはならず、楽器からの直接の音がメインとなって耳に届くことになる。
 
そこで、前回のサロンライブの際に気付いたのが、ヴァイオリンは"箱"が鳴っているんだということ。
もちろん、弦の振動が音の源なんだけど、その側に木の箱があって、それがヴァイオリンの音色を魅力的にしているんだと改めて認識した。
特に発見だったのが、音の鳴り始め、鳴り終わりに一瞬だけ現れる、少しくぐもった音の要素である。
何と言えばいいか、お歳暮で貰ったお菓子の紙箱で子供が作った太鼓のような要素。
 
普通のホールであれば隠れてしまうであろうその要素は決して”綺麗”なものではないのかもしれないけど、例えば音がppで終わるとき、その"箱"感が見え隠れして、楽曲の持つ精神的な繊細さに気付かされる。
 
実際に存在するリアルな「モノ」が鳴っているというリアリティ。
完璧ではない、魅力。
作曲家も、それを理解して曲を作ってたんだろうなと思ったりもする。
 
ちょっと、紙箱って安っぽい言い方かもしれないけど、そこに、大昔の人が良い音を求める中で無邪気に試行錯誤した跡を僕は感じた。
ヴァイオリンはすでに完成された楽器ではある。しかし、それが登場するずっと前から、名も無き”弦を鳴らす楽器”を延々と改良していくなかで、ひとはいろんなことをやってきたんだろう。
そんなDNAがチラッと(あくまでもチラッと)見え隠れするのがヴァイオリンという楽器の魅力である。
 
フレーザーさんのヴァイオリンと。
実は、個人的にやってみたい楽器No.1。
作ってみたい楽器No.1でもある。


 

t*note|米村智裕のブログ

芸術・文化の創造と流通に革新を起こすべく、 株式会社クロスアートの経営に取り組む、米村智裕のブログです。

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